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最高裁判所第一小法廷 昭和39年(行ツ)32号 判決 1968年5月02日

上告人

行田電線株式会社

代理人

野村清美

仲森久司

被上告人

城東税務署長

村上健一

大阪国税局長

高木文雄

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人野村清美、同仲森久司の上告理由第一点について。

旧法人税法(昭和二二年法律第二八号、以下単に法と称する)三五条五項は、審査の請求に対する決定の通知は、その決定をした理由を附記した書面によるべきことを定めたものにすぎない。従つて、その通知書に附記されたところが、たとえ法令の解釈適用を誤つたものであつたとしても、それが決定をした理由と認めうる内容のものであるならば、理由の附記として欠けるところはないのである。ところで、本件において被上告人大阪国税局長の審査決定通知書の附記と認めるに足りることは、原判決の引用する第一審判決の判示するとおりである。してみると、これを法三五条違反とする所論の理由のないことは明らかであり、さらに租税法律主義にもとり違憲とする所論も、ひつきよう理由附記の有無と理由の内容の当否とを混同し、違憲に名を藉りて法三五条の解釈を争うものにほかならない。論旨はいずれも採用しがたい。

同第二点について。

法人の各事業年度における純益金額、欠損金額のごときは、企業会計上表示される観念的な数額にすぎず、被合併会社におけるこれら数額は、もとより商法一〇三条に基づき合併の効果として合併会社に当然承継される権利義務に含まれるものではない。

論旨は、被合併会社が青色申告者として法九条五項により与えられた欠損金額繰越控除の特典は一の権利であり、権利である以上、商法一〇三条により合併会社に当然承継せらるべく、このことは法三条の趣旨からも明らかであるがごとく主張するが、すでに欠損金額の当然承継を認めがたい以上、右数額を基礎としてその繰越控除のできる特典が当然受け継がれるものとは考えられない。おもうに、欠損金額の繰越控除とは、いわば欠損金額の生じた事業年度と所得の申告をすべき年度との間における事業年度の障壁を取り払つてその成果を通算することにほかならない。これを認める法九条五項の立法趣旨は、原判決の説示するように、各事業年度毎の所得によつて課税する原則を貫くときは所得額に変動ある数年度を通じて所得計算をして課税するのに比して税負担が過重となる場合が生ずるので、その緩和を図るためにある。されば、欠損金額の繰越控除は、それら事業年度の間に経理方法に一貫した同一性が継続維持されることを前提としてはじめて認めるのを妥当とされる性質のものなのであつて、合併会社に被合併会社の経理関係全体がそのまま継続するものとは考えられない合併について、所論の特典の承継を否定せざるをえない。合併会社とは無関係な経営のもとに生じた被告合併会社の既往の欠損金額を合併によりこれと経営を異にする合併会社に承継利用させる合理的な理由は、通常の場合見出だしがたく、また被告併会社の欠損金額は、合併会社において受入資産の価額の定め方によつて当然調整できるものであるから、普通には欠損金額の引継などを考慮する要もないのである。結局、合併による欠損金額の引継、その繰越控除の特典の承継のごときは、立法政策上の問題というべく、それを合理化するような条件を定めて制定された特別な立法があつてはじめて認めうるものと解するのが相当であり、所論の商法一〇三条、法三条の規定も、右のように解するのにつきなんら妨げとなるものではない。要するに、原判決が合併会社である上告人につき被告合併会社の欠損金額繰越控除の特典の承継を否定したのは正当であつて、これを非難する論旨は理由がない。

同第三点について。

法九条五項が欠損金額の繰越控除を青色申告者の特典としていること自体、租税政策上の考慮に出でたものであることは明らかである。税法がこのような考慮、あるいは経済政策ないし社会政策的見地から特定の事項について独自な課税上の取扱いを定めることがあつても、それが国会の立法に基づくかぎり、租税法律主義に反するものということはできない。また実質的課税の原則も、政策的な考慮を加えた税法規の制定を否定するものではない。されば、これら政策的な考慮はすべて許されないものとして、原判決が税法においては一定額の税収入をあげまたは特定の事業を保護育成するということを望ましいとする政策的配慮から、会計の計算規定についても商法のそれとはおのずから異なるものがあることは当然である旨を説示したのを非難する論旨は、肯認しがたい。商法一〇三条によつては被告併会社の欠損金額の繰越控除の関係の合併会社への承継を認めがたいとした原判決の判断は前叙のとおり正当であつて、これを違法とする所論は、採用に値しない。

同第四点について。

原判決は、さきに述べたように法九条五項の立法趣旨を説き、従つてこの立法趣旨からすれば、欠損金額の越繰控除が許されるためには、当該法人が独立の人格とその同一性を保つていることを当然の前提とするものと解すべきものとし、この見地から、吸収合併においては、被告併会社は合併の日に消滅するが、合併会社はそのまま人格の独立性と同一性を保持しているから、合併後従前の繰越欠損を控除することは、なんら法九条五項の法意に反するものでない旨を判示したのである。それは判文上明らかというべく、これに理由不備の違法は認められない。論旨は、原判決を正解しないもので、採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 大隅健一郎)

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